2014年10月4日土曜日

日光泉太郎と東山道(12)

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 『My ブログ』
 《考古学&古代史の諸問題》 
 《参考:年表・資料》
 古代史獺祭

 ≪日光泉太郎と東山道≫

 <鉢伏山>

 出典:「小泉小太郎」:「日本の民話10.信濃・越中扁
     <「信濃の民話編集委員会編>昭和51年(1976年)未来社
     179~183頁

  小泉小太郎つづき(東筑摩郡)

  「まあずでっけえ湖でねえか。国ひとつ、すぽーんと入るほどだに。」

 小太郎は手を口にあてて、

  「おっかさーん。」

 とよんだ。

  すると、湖の水が大きくうねり、がばがばと波立つたかと思うと、

 いつのまにか小太郎の前に美しい女の人が立っていた。

  「小太郎、よくきておくれた。母さんはお前のくるのを、

   長い間まっていたんだよ。」

  それは、かって十五年前、

 独鈷山の若い坊様を訪ねた人と全く同じであった。

  針をさされた為にその毒がまわって、

 ついに蛇の正体をあらわして鞍淵に身をなげたが、

 はげしい流れにおし流されるうちに、針は洗い流され、体は清められ、

 そしてこの湖へたどりつく事ができたのである。

  「おっかさん、おら話すことがある。

   この湖の水、田んぼのない村へ流すことはできねえか。

   この湖をひろい田んぼにかえることはできねえものか……。」

  小太郎はじいんと胸のあつかなった事を思い出して、

 さっそく母にたずねてみた。

  母はそれを聞くと急に涙ぐんで頭をたれた。

  「小太郎よ。この湖はな、母さんの大切な湖なんだよ。

   この湖があれば母さんはいつまでも長生きできるし、

   お前とここで幸せにくらすことだってできるんだよ……。」

  「でもなおっかさん、おら、人の役にたちたいんだ。

   おら、旅をしてきたが、この国はどこをあるいても山また山。

   みんな立ってもおれねえようなところに畠を作って生きている。

   ここにはこんなに水があるのに、

   まわりの土地では水がなくて田んぼも作れねえ。

   おっかさん、おら、力があまっているで、

   明日からでも山をきりひらいて、

   この水流してやりてえんだ!」

  思いつめた小太郎の言葉にうたれて母は立ち上がった。

  「お前がそれまでいうなら母さんも力をかしてあげよう。

   しかしどんのことがあっても、

   おどろいたり悲しんだりしてはいけない。

   小太郎、わかったね。」

  そう云うと母は身をおどらせて湖へとびこんだ。

 と、たちまち水は渦をおこし、

  白い霧をふきだして、母の姿は大きな龍にかわってしまった。

  「小太郎、これが母さんの本当の姿です。

   母さんが生きていくためには広い湖がいるのです。

   この湖の水を流せば母さんはまた

   他の湖をさがして旅をしなければならない。

   でもお前のために、いや、水のない、土地のない百姓のために、

   母さんも力をかしてあげよう。」

  「ありがとう。おっかさん、おらやるよ! そしておら、

   いつまでもおっかさんと一緒に生きるよ……。」

 次の朝。

  小太郎を背にのせて犀龍はゆったりと湖の上を泳いでいた。

 湖は朝日にてらされてキラキラと波をきらまかせ、湖をかこむ山々は、

 ある時は赤く、ある時は青く、ある時は紫に、刻々と色をかえて輝いていた。

  「小太郎、この湖がどうしてできたかを話してあげよう。

   その昔、天の神さまが五色の石を天でねっておいでになた時、

   まちがってその石の一つをおとしてしまった。

   石はものすごい勢いで地面をふかくえぐってとびちった。

   そのとびちった石のかけらが山となり、

   深くえぐられたくぼみにできたのがこの湖なのだよ。」

 母のいう通り、

 まわりの山々はいかにも天から落ちた五色の石のかけらのように、

 するどい峰を天にむかってつきたたていた。

  「小太郎、この山をきりひらくことは大変なことです。

   母さんは満身の力をこめて、あの山々にぶつかります。

   しかし、そのために眼がくらんで方向をあやまるかもしれない。

   お前はしっかり母さんにつかまって、

   私の眼がくらんだらさしずをしておくれ。

   それからどんなことがあっても、

   途中で泣いたり、やめようなどといってはいけませんよ」

  「おっかさん。おら、おっかさんの子だ。きっとやってみせる。」

  「それでは今夜からはじまます。

   山をきりくずすまで何日かかるかもしれないけど、

   お前と力をあわせて、

   この湖の水を遠い北の国までみちびくのです。」

  それから犀龍はじっと眼をとじて神々に祈った。

  小太郎も体にあふれる力をおさえてしかり母の背にのっていた。

  やがて日がとっぷりくれた。

  「小太郎。さおれではいよいよはじめます。

   しっかりつかまって、いいね小太郎。」

 犀龍はカット眼をみひらき、天高く体をのばした。

 ど、ど、ど。どーっ……。

 たちまち空には黒雲がわきおこり、はがしい風雨が野山に吹きあれた。

 するどいいなずまがたえまなく、天にそびえる山々をてらしだした。

  「小太郎いいかい。」

  「おっかさん。」

 あれ狂う雨風をしたがえて、犀龍はどっと山にぶつかた。

 しかし、山はびくともしない。

 あらしは何日もつづいた。

 犀龍の眼はくらみ、吐く息は炎のよう、

 体中に傷を負いながらひるみもせずに山にぶつかる。

  「おっかさん、こっち、こっちの山だ・」

 小太郎の声がさかまく波と黒雲をつらぬいてひびきわたる。

  「動いたよ。おっかさん。山がうごきはじめていた。」
 
  「もう一息だ、おっかさん。」

  「ようし。」

 犀龍が最後の力をふるしぼってぶつかった時、ど、ど、ど、ど、ど、……。

 はげしい山鳴りと共に、山はくずれ、

 そのさけ目から水が滝となって流れおちた。

 流れにのって……小太郎をのせた犀龍は山をきりひらき、

 森林をおし流し、

 とうとうと信濃国をつらぬいて北の海へおどりだしていった。

  はじめて雲がきれて、光りの筋が地上をてらした。

  ちょうど夜明けであった。

  新しく生まれた川がキラキラ光ってどこまでも続いていた。

  山々にかこまれた湖の底からたいらかな、

 よく肥えた土地が次第に現れていくのがよく見えた。

  犀龍と小太郎がそれからどこへいったかは知らない。

  だが、洪水や日でりで人々が苦しんでいる時、

 この犀龍にのった小太郎が現れたのを見た人がいるという。

 そして川は今でも犀川とよばれ、湖の後に生まれた土地こそ、

 今の松本、安曇の両平野だったのである。

 後記

 このお話は筑摩の里におさまましたが、

 各地にいろいろな形となっている伝説です。

 所によっては白龍太郎とも泉小太郎ともよばれています。

 南安曇、北安曇、東筑摩、小県の各部にのこっているお話をまとめ、

 小県郡丸子町の黒坂周平先生や塩田町の宮島博敏さんのお話も参考にして、

 これを一つの物語にしました。


 再話 瀬川 拓男

《参考》

 ARPACHIYAH 1976
 高床式神殿、牛頭、空白の布幕、幕と婦人、マルタ十字紋等
 (アルパチア遺跡出土の碗形土器に描かれている) 
 
 
 牛頭を象った神社建築の棟飾部

 本生図と踊子像のある石柱

 Tell Arpachiyah (Iraq) 
 Tell Arpachiyah (Iraq)     
 ハラフ期の土器について
 ハブール川
 ハブール川(ハブル川、カブル川、Khabur、Habor
、Habur、Chabur、アラム語:ܚܒܘܪ, クルド語:Çemê Xabûr, アラビア語:نهر الخابور Bahr al-Chabur
 ARPACHIYAH 1976
 高床式神殿
 牛頭を象った神社建築の棟飾部
 神社のルーツ
 鳥居のルーツ

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